マテリアル インテグレーション 2001年3月号
特集 ICF8(第8回国際フェライト会議)


“特集に寄せて”


 フェライト(Ferrite )とはJISR1600によると“狭義には亜鉄酸(H2Fe2O4)の金属塩を指していたが,最近では鉄を含む複合酸化物の総称.結晶構造によって@スピネル型フェライト,Aペロブスカイト型フェライト,Bガーネット型フェライト,Cマグネトプラムバイト型フェライトに分類される.磁性材料として重要な地位を占める.”と定義されている.フェライトの多くが天然に存在する磁鉄鉱,ざくろ石,マグネトプラムバイト鉱などと関係の深い磁性体であるため人類はフェライトを古くから利用してきた.紀元前の中国では,すでに磁鉄鉱を加工して作った羅針盤が用いられていたという.しかし,フェライトが脚光を浴びるようになったのは,1930年に加藤与五郎・武井武両先生がOP磁石とオキサイドコア(いずれも商品名)を世界で初めて工業化してからである.これらフェライトの歴史的な展望についてはICF8の組織委員である杉本光男氏の解説1)に詳しい.フェライトが上記のように工業化されてから約70年が過ぎ,この間にフェライトの学問と工業が世界各国で飛躍的に発展してきたことは周知の事実である.いま,フェライトの生産量はソフトともハードも世界的規模で10−15%程度で伸びていると言われている.しかし,日本の現状をみると,フェライトの生産量は後進の中国,韓国,インドに抜かれており,伝統のある日本が間もなく没落してしまうのではないかと憂慮されており,フェライト関係の研究者・技術者の踏ん張りが要望されている.
 さて,ICF8(The 8th International Conference on Ferrites ;第8回国際フェライト会議)は,故武井武先生が組織委員長をつとめ,その第1 回を1970年京都国際会議場でスタートしたものの継続で,粉体粉末冶金協会の主催で,平成12年9月18日から22日まで京都宝ヶ池の国際会議場をメイン会場として,25日から27日までは東京の笹川記念会館をサテライト会場として開催された.ICF8の参加者,論文数等の集計は公表されたものはないが,松尾氏のデータ2)によると,京都のメイン会議出席者は552名(外国人201 名),東京のサテライト会議出席者が156名(外国人47名)の計708名(両方への重複出席者が79名)となっている.集まった論文もメイン会議に385編,サテライト会議に60編,計445編となっている.
 この会議まではフェライトについては20世紀までで新しい事柄は出つくしてしまったという声もあったが,開会式の後のメインホールで,フランスのDr.Guyout は「20世紀と21 世紀のフェライト」という題名の招待講演でフェライトはまだ分らない未発見のことが沢山あり,21世紀にも伸びるだろうと述べている.筆者は,40年前に異方性フェライト磁石の研究でホットフォージ法を導入し,世界最高級のフェライト磁石3)を作製したり,新しいCa系フェライトとして(Ca,La)Fe12O194)を発表してきたが,その後25年後に垂直磁化記録媒体にBaフェライトを再度手がけた.また,(Sr,La)(Zn,Fe)12O19系磁石が今会議のハード磁石のトピックスになっているのを見るにつけ,筆者にはフェライトにはまだまだ未開の所があり,宝物が隠されているように思われる.本特集を熟読され宝の山を探して欲しいと願うものである.

[参考文献]
1 )杉本光男;“フェライトの歴史的展望と将来予測”日本応用磁気学会23 (1999)1721
2 )松尾博志;“ICF8見て歩き”電子材料39(2000-11) 92
3 )一ノ瀬昇,丹野善一;粉体粉末冶金協会春季大会概要集(1970)68
4 )N.Ichinose and K.Kurihara ;“A New Ferrimagnetic Compound ”;J.Phy.Soc.Japan 18(1963)1700