マテリアル インテグレーション 2002年7月号
特集 材料・生体・情報の融合を目指して(1)


巻頭言
大阪大学産業科学研究所 教授 新原 晧一

 20 世紀の高度に発展した工業社会は我々人類に、地球環境問題,エネルギー問題,人口増加・老齢化問題,食料問題(水問題を含む)等の緊急に解決すべき諸問題をもたらしました.一方21 世紀に入って,情報通信やバイオ医療に関する科学技術が加速度的に発展を示していることはご存知の通りです.この両面を組み合わせると,21 世紀の科学技術を支える重要な工学分野は,「情報通信工学」「バイオ医療工学」,「環境工学」,「エネルギー工学」「材料工学」であると考えられます.
 我々人類の緊急課題である環境及びエネルギー問題の解決には新しい材料の開発と広い工学分野との融合が不可欠であることを考えると,現在の日本の風潮とは異なり,「材料工学」は今後は益々その重要性を増すと予測されます.また,その材料も自然界に存在するものの利用ではなく,「情報通信工学」,「バイオ医療工学」,「環境工学」,「エネルギー工学」の発達に伴う要求にしたがい,金属,無機,有機,半導体材料を同一種材料或いは異種材料間で複合化・融合化し,材料機能を従来の単機能型から複合機能型へと変革した材料(即ち多機能調和型材料)を自在に設計する必要があります.
 この様な多機能調和材料を実現するためには,相手材料の弱点を飛躍的に改善しながら一方ではその優れた機能をも更に向上させことを可能にするミクロからナノレベルでの特異な複合構造を実現する方向と,ナノ・分子・原子レベルで2種以上の材料を融合化することによる従来とは全く異なる新機機能材料のイノベーションを指向する方向とが考えられます.
 新産業の育成においては新しい構造・機能を有する材料の開発が必須ですが,20 世紀に提起された問題点を解決し,さらにおおきなイノベーションにつなげていくには「物理・化学」中心とした垣根を乗り越えて,生命科学,ソフトウエア技術との有機的な融合が必要なことは言うまでもありません.
 このような観点から,「マテリアルインテグレーション−材料・生体・情報の融合をめざして−」と題し,2002 年7月号,8 月号では,大阪大学産業科学研究所における研究を紹介することとしました.21 世紀に革新的な発展を示すと考えられる技術に関して,「多機能材料」,「新デバイス」「新エネルギー」,「環境保全」,「生命」をキーワードにして,同研究所で活躍されている研究者に現状と将来に関して執筆いただきました.
 本特集号が、読者の皆様の今後の研究開発の方向付けの一助になると共に,基礎研究サイドと応用研究サイドの研究者をブリッジングする役割を担えたらと期待します.最後に、多忙の折りにも係わらず,短時間で原稿を作成いただいた著者の方々にこの場を借りて深く感謝します.