マテリアル インテグレーション 2004年2月号
特集 酸化チタン光触媒とその応用


巻頭言
大阪府立大学大学院工学研究科 安保 正一

地球環境の悪化やクリーンな新規エネルギー創製の課題とも関連して,クリーンで無尽蔵な太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換し環境浄化や化学物質の合成が可能である“光触媒”が環境調和型の化学プロセスとして注目されている.中でも,酸化チタン光触媒の実用化が見られるようになってきた.本特集号は,酸化チタン光触媒に関して高効率な触媒の創製から実用化製品開発までを取り上げるとともに,日本とともに開発熱が高まっている韓国での研究成果をも紹介することを目的として企画されたものである.
酸化チタン光触媒をバンドギャップよりも大きなエネルギーを持つ光(380nm よりも短い波長を持つ光)で照射すると,図1に示すように,伝導帯に電子が価電子帯には正孔が生成する.電子と正孔はそれぞれ高い還元力と酸化力を有し酸化チタン表面において触媒反応を誘起する1)-5).例えば,脱気した水中で酸化チタンを光照射し電子と正孔が生成すると,電子はH+を還元し水素を与え,正孔はOH-を酸化しOHラジカルを生成しH2O2の生成を経て酸素を与える.結果として,水の分解反応が進行し水素と酸素が生成する.これが光触媒反応である.
一方,脱気しない水溶液や大気中のように酸素と水の存在す系で,酸化チタン光触媒を紫外光で照射すると,図2に示すように,O2-とOHラジカルを生成する. これら反応性の高い活性酸素は水中に含まれる低濃度の有害有機物質や大気中の希薄濃度の悪臭物質を完全酸化分解し二酸化炭素と水を与える.この反応性により酸化チタン光触媒が環境浄化に利用できるのである.
しかし,このような完全酸化反応を導くには高い活性を有する酸化チタン光触媒を用いることが必要となる.このため,効率の高い酸化チタン光触媒を実用に即した形態で開発することが不可決となる.勿論,地球規模での酸化チタン光触媒の大規模な実用化には可視光や太陽光を有効に利用できる可視光応答型第二世代の酸化チタン光触媒の開発が必要となるが6),これに関しては別の特集を企画することにする.

参考文献
1)窪川裕,本多健一,斉藤泰和共編 「光触媒」,朝倉書店 (1988).
2)安保正一,市橋祐一,山下弘巳 「触媒技術の動向と展望1997」,触媒学会編 (1997).
3)安保正一,松岡雅也,「グリーンケミストリー」,130 (2001).
4)安保正一,道志 智,「工業材料」, 51, 21 (2003).
5)安保正一,「先端化学シリーズ」触媒,日本化学会編,170 (2003).
6)安保正一,胡芸,北野政明,竹内雅人,松岡雅也,「化学」58,18 (2003).