マテリアル インテグレーション 2007年10月号
原子・電子レベルからの材料界面設計


材料界面への原子・電子レベルからのアプローチ
(独)産業技術総合研究所 ユビキタスエネルギー研究部門 上席研究員 兼 ナノ材料科学研究グループ長 香山 正憲
東京大学大学院 工学系研究科 総合研究機構 教授 幾原 雄一

様々なデバイスや材料の開発では,材料界面の構造や性質の解明とそれを通じた設計・制御技術の確立が極めて重要である.例えば,電子デバイスは半導体・絶縁体・金属の間の界面の集合体であり,ナノデバイス実現のためには,界面を原子レベルで設計・制御することが必要となる.環境適合型モバイル電源として電気自動車への展開が期待される燃料電池やリチウムイオン蓄電池では,電解質と触媒金属や電極金属との界面の電子,イオンの挙動が性能を支配する.熱遮蔽コーティングやスペースシャトルの耐熱タイルなど異種物質間のコーティングや接合の信頼性を高めるには,界面の構造や性質を原子・電子レベルで理解する必要がある.太陽電池や薄膜トランジスタ用の多結晶半導体やセラミックス,金属材料での粒界の重要性は言うまでもない.また,界面や粒界の特異な現象を利用するものとして,バリスタやPTCサーミスタなどセラミックス素子のメカニズムの解明はホットな話題である.最近注目されるReRAM(抵抗変化型メモリー)では,電圧パルス印加で金属/酸化物界面のショットキー障壁が大きく変化すると考えられるが,詳細は不明である.金触媒など金属/無機ナノ触媒では,金属ナノ粒子と無機担体との界面相互作用が触媒機能の発現に大きな役割を持つが,そのメカニズムは未だ謎である.また,ナノ粒子によるナノ結晶では,飛躍的な強度の向上や超塑性挙動など,特異な機械的性質が発現する.粒界と転位の相互作用や粒界自体の力学挙動に起因すると考えられるが,やはりメカニズムの詳細はわかっていない.

こうした材料界面の構造や機能を詳細に解明する手段として,電子顕微鏡観察と第一原理計算の組み合わせが有効である.最近の電子顕微鏡観察技術の進歩は著しく,原子分解能の格子像観察,HAADF-STEM法による局所元素分布観察,EELS-STEM法による局所電子構造観察,電子線ホログラフィー法によるポテンシャル分布観察が可能である.最近は,球面収差補正技術により各種分析手法の空間分解能が原子サイズに到達しつつある.一方,第一原理計算では,密度汎関数理論の確立で精度が向上し,projector-augmented wave法をはじめとする高効率手法の開発,Car-Parrinello法に始まる大規模構造計算技術の進歩により,現実的な界面構造の安定原子配列と電子構造,諸性質を高精度に求めることが可能となってきた.特に1990年代以降,この両者を緊密に組み合わせることで,界面の構造や性質の解明が飛躍的に前進してきた.

こうした解明から一般的に言えることは,例えば,\MARU1粒界の構造ユニットなど界面の規則構造や局所ボンドがしばしば界面全体の性質を支配すること,\MARU2界面ストイキオメトリの乱れが様々な結合性や性質を生むこと,\MARU3界面の添加物や不純物の重要性,\MARU4金属/セラミックス界面など,異なる結合性の物質間界面には,バルクにはない特異な結合状態が生まれること,等々である.こうした知見を材料界面の設計・制御技術の構築,新規材料やデバイスの創成に活かして行くことが期待される.本特集では,こうした材料界面の解明と設計を目指した研究状況を紹介したい.